[東周英雄伝]
我々夫婦の結婚50周年のお祝いとして娘が買ってくれた台湾で出版された鄭問の「東周英雄伝」全3巻を読み始めた。
鄭問は台湾に生まれた画家で、1992年「東周英雄伝」を日本の週間漫画誌に掲載し、熱烈な歓迎を受けた。日本漫画協会は彼に優秀賞を与えた。今回私がもらったのは、その中国語版(台湾版)である。
この漫画は、中国の春秋戦国時代すなわち紀元前770年から221年の間に出た英雄の物語である。この時代の中国は,体制が崩れ、群雄が割拠し、多くの豪傑、謀略家、思想家、軽快にお飛び舞う女たちが出現した。この本では、張儀、孔子、斉国の桓公、西施、秦の始皇帝、墨子、屈原、孫子など20数名の英雄が登場する。
一例では孔子篇について。題名は「万世師表(手本となる人物)」、32ページ。魯定公10年孔子51歳(紀元前500年)から73歳で死ぬまでの22年間の物語が書かれている。司馬遷の書いた「史記」の「孔子世家」や「論語」そのものに準拠しているものと思われるが、照合してみると台詞は必ずしも同じでない。漫画は漫画なりの吹き出しにふさわしい台詞があるようだ。日本語の漫画からも分かるように、漫画の台詞が言葉として易しいとは限らない。
英雄のなかでは、越国「西施」の物語が可哀想で胸を打つ。西施は芭蕉が「象潟や雨に西施がねぶの花」と詠んだことでも有名な美女だが、命令通り敵国呉国の王を惑わし自殺させて帰国した後、郷里に帰ることはかなわず、自国越国の王を惑わしかねないとして殺されてしまう。美女であり過ぎることの悲しさである。美女であることを知っているのみで、このような物語があることは知らなかった。漫画は、短時間で鮮明に物語を語るという特質があるのかも知れない(もっとも実は西施はもともと越王の参謀范蠡の恋人で、二人は後々手を取り合って幸福に暮らしたという説もあるそうだ(「故事で成句をたどる楽し中国史」(井波律子))。
大体は一人で読むのだが、勉強のために何編か中国人の先生と一緒に読んでみた。たとえば「比干」とだけ書いてあるとさてこの意味はと考えてしまうが、中国人だとこれが「封神演義」に出て来る殷代の王族の名前であることは大体知っているので、すぐ教えてもらえる。また、話し言葉としてどこで息を切ったらよいか、などは、小説を読むのとは別に大いに勉強になった。私同様漫画が嫌いな先生も、絵がきれいだし面白いわ、とのめり込んでしまった。
笑ふ松島うらむ象潟青葉雨
|