芳崖の達磨目を剝く雨月かな
捕虫網立て掛けてあり天麩羅屋
蜩の仕舞よ墓所の桜の木
月光を散らかしてゐし花カルタ
破れ蓮伏し目がちなるルオーの絵
芒野のひかりに迷ふ獣の声
鳥野辺の六波羅密寺月明り
公園の津軽三味線曼珠沙華
紅葉の山で出会ひし仁王像
硝子絵のカドミウムレッド櫨紅葉
(注)正太郎歳時記は、所属結社誌に投句して主宰に選ばれた句、俳句教室で先生の評価をいただいた句、句会で点を得た句、自分でよいと思った句などのなかから、残しておきたい句を選んだものです。
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冬
一月
一山に一列のあり初詣(2008)
初日射舎利殿のある山深く(2008)
真直ぐな北山杉やお元日(2008)
鎌倉五山みな正月の山となり(2008)
岩田帯そつとゆるめて七日粥(2008)
母笑まふ郷の寒菊供へしに(2008)
方丈の茶室開きや実千両(2008)
初波や海の底なる古代層(2008)
初銅鑼や繋がれてゐる氷川丸(2008)
漱石山房机の硯寒暮かな(2007)
守る人のなき英霊碑初日影(2007)
見晴るかす秩父丹沢初景色(2007)
長き笛負けるほかなきラガー等に(2007)
いりあひや目線揃へる寒鴉(2007)
初能をさらふ声なり大扉(2007)
初飛行汝が星座より吾が星座(2007)
奉納のわらじ大足日脚伸ぶ(2007)
夜明かりの緋寒桜や涅槃堂(2007)
初日射閻浮の塵の隅々に(2007)
寂しさに海を覗けば寒暮かな(2007)
鎌倉の豆撒の声海に抜け(2007)
福豆を噛み父母の匂など(2007)
しばらくは海温めゐし初明かり(2006)
しばらくは海の下なる初日かな(2006)
たまゆらの幸せのあり七草粥(2006)
声といふものの響きや初謡(2006)
奉献の菰樽二百春隣(2006)
アロエ畑花赤々と寒に入る(2005)
左義長の跡に残りし竹箒(2005)
お神籤の結び目解けし春隣(2005)
石壁の影の黒しや日脚伸ぶ(2004)
寒晴れや母子キャッチボール山なりに(2004)
輝は空温もりは海へ初曙光(2003)
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二月
立春の水撒かれけり魚市場(2008)
魚市の中の刃物屋冴返る(2008)
春北風築地の土塀曲がりけり(2008)
なよやかなとげ抜き地蔵春の水(2008)
とげ抜き地蔵詣でしよりの春の風邪(2008)
立春を魚糶る声吹き抜くる(2008)
白魚の透きし卵のなほ透きし(2008)
真っ黒な腹探られし細魚かな(2008)
妻にして藍蒔くときは研究者(2008)
里の空里の山あり梅の花(2007)
緑青の龍の口より春の水(2007)
白梅の八分五分二分深山晴(2007)
寒明けや航跡長き豪華船(2006)
乾坤を切り裂く筆や春の展(2006)
春仄か祖父の作りし押葉帖(2006)
春節を躍りし龍の蛻(もぬけ)かな(2006)
立春の海分かち合ふ鳥の群(2006)
立春やニューヨークの方から日の出(2006)
玉砂利を踏みしむ音や春の雪(2006)
薄氷の天保年号鉄の桶(2005)
下萌えの庭へ雅楽の越天楽(2005)
寒明けの岬のひかり海発てり(2005)
公魚の網曳く舟や奥へ奥へ(2005)
三月
山笑ふとはふくよかな楠の揺れ(2008)
丹沢の山襞ゆるむ桔梗の芽(2008)
面影の急に濃くなり花ミモザ(2008)
車椅子の隊列停まる山菫(2008)
春塵や馬場先門のカフェテラス(2008)
小公女の佃へ朝日渡りけり(2008)
ほかほかの白飯小公女の釘煮(2008)
つるし雛吊されてをり笑ひをり(2007)
曠野ゆく西蔵鉄道鳥雲に(2007)
空揺らし天辺の枝剪定す(2007)
落椿五体投地や苔の上(2007)
大仏の目瞑る空や鳥帰る(2007)
護国寺の枝垂桜や読誦会(2007)
地震震りて木五倍子の房に昼の不意(2007)
濠の水桜田門へと温みけり(2006)
桜田門お濠の水の温みけり(2006)
お水取りの火の粉被りし衆にをり(2006)
雑踏にして水取の火の粉浴ぶ(2006)
耕人の大和まほろば焚いてをり(2006)
諳んじし漢詩朗々青き踏む(2005)
茎立つや四方は高き山の峰(2005)
四月
どこからが富士どこまでが養花天(2008)
清明の海汲み上げて桜えび(2008)
産月の娘の帰り来し桜餅(2008)
見下ろせる桜見上げてゐる桜(2008)
夕桜娘に話す墓所のこと(2008)
岨道は藤の花房揺るるより(2008)
屈強の主老いたり藤の垣(2008)
石楠花や泣虫山の雨催ひ(2008)
兵団の崩るるごとし丁子散る(2008)
花の宴賢者饑(ひだる)し伊達寒し(2008)
屈強の主老いたり藤の垣(2008)
富士川に白蝶の白見失ふ(2008)
なにはさてとげ抜き地蔵へ弥生月(2008)
眠さうなチューバの音や花祭(2007)
天心へ上る階花の坂(2007)
明るきは滅びの姿花海棠(2007)
さくらさくら逝きし親族の魂の降る(2007)
とよあきつしまのやさしき穀雨かな(2007)
あめつちを混沌にせし花吹雪(2007)
骨箱の花びら敷いて並びしと(2007)
花重し半夜の雨の播磨坂(2007)
枝折り来し奥の千本桜闇(2007)
明け初めし大和まほろば花馬酔木(2007)
富士に海終ひに菜畑暮れにけり(2006)
昼の海花菜畑と光り合ひ(2006)
別れ霜遺跡の識し点々と(2006)
鳥交る少しはなれて一羽あり(2006)
一隅に桜映せし障子かな(2006)
男坂女坂分け散る桜(2006)
花重し煙雨の中の天守閣(2006)
大屋根を花越えて来し笙の音(2006)
嬉々として花散らしゐる鳥語かな(2006)
散りしより花それぞれの浮遊かな(2006)
昨夜まで雨の滴の花蘇芳(2006)
昨夜ふりし雨の滴の花蘇芳(2006)
蓋開けて蛤汁の湯気柱(2006)
春愁のジグソーパズル組み直す(2006)
蘖(ひこばえ)の樹叢の仲間となる闇夜(2006)
利休鼠の雲の眼ん玉春燈(2006)
春深し海を見下ろすカフェテラス(2005)
搏動の音乱れをり朧の夜(2005)
六千ボルト高圧電線鳥交る(2005)
日の落ちて朧は雲となりにけり(2004)
三百年の松の枝透かし菜花畑(2004)
ブランコを漕ぎ少年の目に出会ひ(2004)
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五月
柔らかき祭半纏から赤子(2008)
名付くまで小太郎と呼ぶ五月かな(2008)
唐門を抜けて擬宝珠つづきけり(2008)
朴の花洗ひざらしのごとき空(2008)
子を抱く手つきあやふし若楓(2008)
紙兜被せて赤子初端午(2008)
菖蒲田の稲田と水を頒ち合ふ(2008)
菖蒲田の水に菖蒲の花模様(2008)
神田上水流れて消えし花菖蒲(2008)
菖蒲田に風起こしゐし蝶の群れ(2008)
手を広げオランウータン夏野へと(2008)
七連敗明けの一勝夏に入る
シオランの哲学書読む五月かな
子がこども産みしその日の鯉のぼり
産まれれば意のごとならず武者人形
海宿の窓ごとにある卯月かな(2007)
捨小舟舟の中まで卯月波(2007)
武者人形兜の阿弥陀被りかな(2007)
柿若葉天麩羅にしていただきぬ(2007)
大手鞠白を究めて散りゆけり(2006)
緋の牡丹人形塚の白き石(2006)
キックオフのボールの弧影立夏かな(2006)
夕闇を薔薇と黒猫立ち上がる(2006)
竹の子に倚り懸かりゐし栖かな(2006)
父祖の家の十畳の間の薄暑かな(2006)
夜叉五倍子の実を見失ふ薄暑かな(2006)
アカシアの花屑スペイン瓦屋根(2005)
パティオの空夏雲一つ横切れり(2005)
母に倣い兜飾れり十畳間(2004)
北欧の少女金髪光る夏(2004)
盗人もゐて観光船夏溢る(2004)
フィヨルドの奥へ奥へと夏深む(2004)
六月
籐椅子の値札の褪せし海の町(2008)
優曇華や赤子に広き母の胸(2008)
安国論復習ひし寺やほととぎす(2008)
薫風や墨黒々と嬰児の名(2008)
昼顔や赤子の顔の百面相(2008)
昼顔や一乗ヶ谷陣屋跡(2008)
五月雨や洗ひざらしの海岸線(2008)
五月雨に頭打たせて阿弥陀仏(2008)
百年の屋根裏に棲む五月闇(2007)
奥能登の闇の海色蛍かな(2007)
今年竹伐って生き水浴びせられ(2007)
奥能登の人恋ふごとき蛍かな(2007)
あきつしま八十島かけて走り梅雨(2007)
「猿蓑」の元禄暑し暑しとよ(2007)
ホタルブクロ灯されてゐし夢野原(2006)
蹲の底の黒々梅雨の入り(2006)
梅雨入りの今年も濡れしクラス会(2006)
万緑の心音であり鐘の音(2006)
花菖蒲花より蕾濃紫(2006)
鮎の糸金輪際へ伸び行けり(2006)
大南風顔の傷なき磨崖仏(2006)
地べた這ひトダテクモの巣調査隊(2006)
アイリスの不意に花びら揺らしけり(2005)
メル友とつひに会う日や明易し(2005)
手土産に陽に膨れたる枇杷をもぎ(2005)
神橋の朱き半円青嵐(2005)
日照らす雲や溽暑の日の終はり(2004)
河骨の群葉一花護りをり(2004)
七月
炎熱のシベリアを来しオートバイ(2008)
夏の陽の欠けら集めて琥珀宮(2008)
サーファーの一夏くやしく暮れにけり(2008)
身二つになりて帰る娘合歓の花(2008)
自惚れも自虐もありて端居かな(2008)
孫二人左利きなり水鉄砲(2008)
噴水の噴水を越す力かな(2008)
夏の月飛び出す絵本から空へ(2008)
鳴く方へ身をよぢらせて蝉の殻(2008)
夏蜜柑伊豆の太陽甘きこと(2008)
ひかり煌煌金魚掬ひの名人証(2008)
黄金虫一体載せて貨物船(2008)
花槐(えんじゅ)祖父の小さくなりて逝く(2008)
一皿の水しぶき盛り川床料理(2007)
水占や貴船の奥社滴れり(2007)
聞香のとびら放てば夕立かな(2007)
四十年ぶりの宿なり鱧の皮(2007)
夏霧の九頭竜川を上りけり(2007)
一山に一校ありし合歓の花(2007)
一乗谷朝倉遺跡漆掻(2007)
山門を抜けし夕立失せにけり(2007)
棚雲の真裏落ち行く大西日(2007)
ブランデンブルグ門をくぐれる西日かな(2007)
四書五経つまみ食ひせし紙魚の居り(2007)
さそり座の尾の打ち払ふ花火かな(2006)
貨物車の夏の燃え殻積んで行き(2006)
「海辺のカフカ」栞しままに過ぐる夏(2006)
石亀の見上げてゐるははたた神(2006)
手花火の夢の続きを点しをり(2006)
梅雨明けの日がな小舟の機関音(2006)
やはらかくかひなからませほほづき市(2006)
髪上げて外湯巡りやかき氷り(2006)
睡蓮の花も水面も日向雨(2006)
フラメンコ飾りと汗の散りし夏(2005)
曳き舟の七月の影曳いて来し(2005)
十薬の柄の日傘や坂の上(2005)
墓の杉一頂天へ夏の月(2005)
新道路夾竹桃の花まばら(2004)
目印の風鈴の音に案内され(2004)
サングラス母似のさらに母に似て(2004)
よきことの多きひと日や百日紅(2004)
空碧きスカンジナビア原爆忌(2004)
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八月
腕時計振って動かす八月尽(2008)
流れゆく水を隠せしあかまんま(2008)
秋催ひプラダの店の宇宙服(2008)
半歳のざわめき過ぎて文月かな(2008)
見えぬもの映りてゐたり秋の水(2007)
見えぬもの映してゐたり秋の濠(2007)
大ねぶた去りてみちのく鎮まれり(2007)
鞍馬川鞍馬の残暑流しけり(2007)
曳かれ行くねぶたの後の真暗がり(2007)
竿灯を支へる身体大の字に(2007)
ねぶた来る光りの刃振りかぶり(2007)
竿灯の風の強さに立ち向ふ(2007)
手踊りの開け閉てて行く夜の帷(2006)
落ち蝉とジャングルジムを掴み合ふ(2006)
墓洗ふででむしひとつ残しけり(2006)
稲妻や箪笥に古ぶ文の束(2006)
おしゃれ着の一家初秋のエアポート(2005)
鉄の骨残暑ベルリン壁の跡(2005)
踊り下駄道行く音のおぼつかず(2004)
九月
鎌倉に干されて潤目鰯かな(2008)
一坪の墓一輪の曼珠沙華(2008)
枝豆の丹波土つけ抜かれけり(2008)
月高し蝦夷松樹齢五百年(2008
すすき野の揺るるほかなき一穂かな(2008)
実朝の海へ落ちゆく月の雨(2007)
曾祖父の学びし寺や曼珠沙華(2007)
秋の月みなとみらいの灯を統ぶる(2007)
つゆくさの先の藍色水の音(2007)
萩の上に山門のあり山の寺(2007)
曾祖父の学びし寺や曼珠沙華(2007)
流鏑馬の蹄の音や萩日和(2007)
玉敷の露踏み分けて奥社(2007)
闇色の運河月餅様の月(2006)
三百年松の大地の月見かな(2006)
着地するラジコン飛行機花すすき(2006)
境界は萩の花屑ちるところ(2006)
五角形の玉手箱から桔梗かな(2006)
剪られたる樹々の形や虫の闇(2006)
鎌倉に生れ白萩となりにけり(2006)
芋虫に何処へ行くのとつひ尋ね(2006)
異国なるヒロシマ通り草の露(2005)
星屑の近づき難し今日の月(2005)
全山の露穿ちしか心字池(2005)
芒原隠し来たりしこと三つ(2005)
黒揚羽もつれもつれて岩の谷(2004)
コスモスの花びら薄し海の音(2004)
シホトンボ消えて水草揺れつづく(2004)
新しき墓誌の字白し曼珠沙華(2004)
空白多き母の自分史夜長かな(2003)
「秋の七草」百号の絵や秋溢る(2003)
てっぺんに飛び散るひかり竹の春(2003)
十月
平成二十年Aの死を悼んで二句
笑顔よき巨きな男秋の野へ(2008)
年下の彼奴の野送り櫨紅葉(2008)
菊日和鳶の輪高き鷲峰山(2008)
源流の色を流して紅葉川(2008)
黄落や電気キラキラ楽器街(2008)
無患子やポケットの音カラカラと(2008)
七十路を日めくりで来て秋思かな(2008)
豊秋津島より紅葉溢れ出づ(2008)
泣き顔の方へザクロの開きをり(2008)
秋高き天日いただく干物かな(2008)
黄落の老舗ホテルの予約席(2007)
玩具めく煉瓦倉庫の夜寒かな(2007)
車引く馬目を伏せて黄落期(2007)
十月の音生れ出づる瓢池(2007)
敗荷を見ている泣きべそをかいて(2007)
歳時記に風栞り来しナナカマド(2007)
はじかれて木の実となりぬ木の実独楽(2006)
朝寒やようやく馴れし貰ひ猫(2006)
石段を土に還してゐる木の実(2006)
秋風に何か捜してゐる鳶(2006)
六角の電話ボックス秋日影(2006)
山粧ふいよいよ高き鳶の円(2006)
登高の車椅子押す武者は誰そ(2006)
筑波嶺の男体女体夜寒星(2005)
色づける岸辺錆鮎落ち行けり(2005)
ふるさとの栗の匂ひに目覚めけり(2004)
鶺鴒の影呑み込みし早瀬かな(2004)
鈍色の町貫けり鵙の声(2004)
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十一月
木魂して神の居留守かとも思ふ(2008)
父祖の家のブリキの祠神の留守(2008)
鷹匠の座せり藩校跡の庭(2008)
神留守にしてもおむろにマント狒狒
巡礼の鈴の転びし今朝の冬(2008)
これやこの鞠子の宿のとろろ汁(2008)
豆腐屋と贔屓のはなし姫椿(2008)
木の葉髪はらり「吉原手引草」(2008)
楽しげな枯葉姿の蛹かな(2007)
豆腐屋と贔屓の話木の葉髪(2007)
俊寛の歌舞伎競演木の葉髪(2007)
山姫の転がってゐる大広間(2006)
土踏めば大大根の構へるか(2006)
初冬の船剥げ落ちしロシア文字(2006)
けさからの冬の光りや相模湾(2006)
父祖の地の地形でこぼこ片しぐれ(2006)
冬花火消え全湾の灯かな(2006)
すり鉢の地形なぞりて冬の鳶(2006)
土踏めば大大根の構へるか(2006)
三叉路の雑魚屋の庇初しぐれ(2006)
山茶花や読経唱和す巡礼団(2005)
落ち葉舞ふ閉店茶屋の緋毛氈(2004)
地境の茶の花三つ地鎮祭(2004)
かつがれて威勢のつきし大熊手(2004)
汝が胸の手術の癒えよ冬の湯屋(2003)
十二月
物憂げな河豚屋隣の時計店(2008)
ホルンから第二楽章冬木の芽(2008)
魁皇に強きときありふぐと汁(2008)
極月を皇帝ダリア睥睨す(2007)
姑偲ぶ妻と送れり大晦日(2007)
冬日墜つ火の見櫓の真上より(2007)
大仏を囲む冬野は鳶のもの(2007)
鬣のごと枯蘆の残りけり(2007)
やはらかく冬田は川を流しをり(2007)
冬の海安房一国は靄のなか(2006)
仲見世を産土として鯛焼に(2006)
羽子板市優しい顔を上段に(2006)
北西の風の形の枯葎(2006)
古暦喪中の知らせ続きけり(2006)
散らばれる家を抱いて山眠る(2006)
看板のモデルの睫毛煤払ひ(2006)
待ち合はす店閉じてをり里神楽(2006)
短日の街駆け抜けし女子マラソン(2005)
除夜の鐘成し遂せしこと一つあり(2005)
鳰のほか浮かぶは午後の陽の翳り(2004)
近道を影と走れり冬木立(2003)
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岩田帯そつとゆるめて七日粥
産月の娘の帰り来し桜餅
子がこども産みしその日の鯉のぼり
産まれれば意のごとならず武者人形
名付くまで小太郎と呼ぶ五月かな
子を抱く手つきあやふし若楓
紙兜被せて赤子初端午
薫風や墨黒々と嬰児の名
昼顔や赤子の顔の百面相
身二つになりて帰る娘合歓の花
優曇華や赤子に広き母の胸
柔らかき祭半纏から赤子
孫二人左利きらし水鉄砲
(2008年10月)
白夜へ滲み出す
バイカル湖横切る夏の雲の影
東京の蠅モスクワへ飛び出せり
向日葵や露人イリーナ通弁す
レーニン廟の広場晩夏のコンサート
遠雷やイワン雷帝馬車の音
片陰をはみ出して来る大男
モスクワ川たった一人の夜釣かな
古戦場の新郎新婦花カンナ
飛機夏の機影を白樺の森へ
白夜へとペテルスブルク滲み出す
ネヴァ川のハネ橋跳ねて白鳥座
拍動の乱れし不安夜半の夏
玫瑰の堤の先のバルト海
戦史碑のまこと多かり夏落葉
驟雨去り噴水川に鳥戻る
バラライカからロシア民謡夏野原
飛行機雲夏雲を出て秋雲へ
マンモスの眠れる森の晩夏光
バルト海要塞越えて蚊の柱
切紙のロシア絵本や夏果てり
(2008年8月)
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サン・ジェルマン通のカフェ朝の薔薇
花菩提樹ひかり揺れ風揺れて来し
水打てる朝のシテ島黒き犬
ユトリロの白と出逢へり半夏生
凱旋門から八方へ青葉風
夏衣の風切れぬ肩シャンゼリゼ
夏の泥浚渫船の三色旗
呼び声のお国言葉や露台から
馬冷やすベルサイユ森四輪馬車
うっとりとローランサンの子鹿かな
睡蓮の時刻みゐるモネの池
薔薇窓のステンドグラス夏の闇
ゴッホの部屋のまこと小さや罌栗の花
夕立や凹凸深き石畳
イベット・ジローの唄真似てみし額の花
ミラボー橋我も流れむ夏の暮
古本屋の灯ともす河岸夏の月
オペラ座の身を翻す火取虫
夏の夢ショーの終りは灯の飛礫
人騒のいつかは果つる白夜かな
(2007年6月)
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日に四便のバス待つ翁秋湖畔
河童の淵なる稲の田の見え隠れ
紫陽花の湖面の色となってゐし
ペルシャンブルーとは新涼の森の湖
岩垣の淵の深蒼ナナカマド
雷神と湖底の太古交信す
虎杖の花傾けて夕立かな
湖に注ぐ沢辺に摘みし秋の菜
さまざまな水音すなる秋の湖
秋の湖へ夕べの水の落ち行けり
棚雲を落ちてしまひし西日かな
大西日落つ湖の音残し
宵闇の余光集めし山の湖
垂直に立つ秋田杉秋の月
さそり座の尾の打ち払う花火かな
水神の渡す湖路秋燈
さまざまな虫住まはせり秋田蕗
船着場は榛の木の下群とんぼ
樹を囲む桔梗の湖に靡きをり
山姫の転がってをり湖畔宿
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欧亜隔つウラル山塊雲の峰
ブランデンブルグ門にあり敗戦忌
桐一葉空爆の前後の市街地図
銀漢やホロコーストのメモリアル
空爆の崩れ鐘塔秋夕焼け
通の名はヒロシマ通り草の露
薄靄のダブルスカルや今朝の秋
黒き森白き涼気を生みてをり
菩提樹に続く菩提樹秋の雨
秋の雷青青々とピカソの絵
美術館出て胸ほどの曼荼羅花
小オペラ主役照らせし月明かり
呼び声のときに母国語夏の市
高き城胸張りて越す夏つばめ
輪唱の通れる野原夏ゲンゲ
赤煉瓦広き工場夏落葉
水澄みて城いささかも揺らぐなし
広き肩落とせる男秋の駅
住み家跡の不意の秋雨父の声
父の霊半分連れて秋帰航
(2005年8月)
(「中国語エッセイ・日本語つき」(2005年)のページの「柏林行」をお読み下さい)
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