正太郎歳時記

最新作
 
香水や古くて新しき香

隠れん坊見付けて蝉のいばりかな

炎天や戻らぬ叔父の紫電改(しでんかい)

炎天や棒高跳びの燦めきて

炎天へ走り高跳び反り返る

炎天や母子に遠き最寄り駅









 

(注)・正太郎歳時記は、所属結社誌に投句して主宰に選ばれた句、俳句教室で先生の評価をいただいた句、句会で入選したり、点を得たりした句、自分でよいと思った句などのなかから、残しておきたい句を選んだものです。
・俳句の漢字は読み方が難しいというご意見がありましたので、ルビを多めに振ることといたしました。



冬・新年

一月

なほ朱に染まれる妻の初湯かな(2020)

吊されて初風呂に入る日も近し(2020)

初場所贔屓(ひいき)力士の脚細く(2020)


追羽根の高きみ空や梅一輪(2020)

目標は五キロ減量初湯かな(2020)

朝餉(あさげ)これから(つま)(まかな)ひ老の(2020)

初夢の祖父我に言ふありがたう(2020)

ときめきも不整脈めくおらが(2020)

八十路なほなすことのあり新暦(2020)


ラガーらにめくられ芝生花模様(2020)

米寿引く1は光寿かおらが春(2020)



羽ばたいて羽子(はね)はきらきら君がりへ(2019)

の心拍数のはらはらす(2019)

羽子を打つかの世の姉に届くまで(2019)

揚羽子(あげはね)の高く飛べ良き年になれ(2019)


大臼の力いただく雑煮餅(2019)

無患子(むくろじ)の黒くなれ佳き羽子(はね)になれ(2019)


八十路なほ追ひかけられて初寝覚(2019)

母の逝き猫逝き年の改まる(2019)

手を拍てば富士の近づく初景色(2019)


狭庭(さにわ)より富士へ御慶(ぎょけい)もあと幾年(2019)



降るや姉の庇蔭にありしころ(2018)

取られまじ母のおはこの歌かるた(2018)

屠蘇盃やたゆたひ出づる梅の花(2018)


遙かなる花の戌年生まれかな(2018)

初夢や昔の我とすれ違ふ(2018)

屠蘇器雛のごとく取り出す(2018)

三代に侍りし誉れ屠蘇器(2018)


草中に母おはします龍の玉(2018)

初夢やかの世この世を行き通ひ(2018)

祖母
肌の会津訛りや名は小雪(2018)



餅好きはめでたく孫へ花びら餅(2017)

失敗は笑ひ飛ばさん老の春(2017)

(きね)も臼も()き手も湯気を上げ(2017)

返し手の母に合はせて餅を搗く(2017)

耳鳴りも(しゃく)もてなづけ七日粥(2017)


水餅や水の力の限りなく(2017)

水餅の眠るがごとく甕の底(2017)


やはらかくかの世の姉へつぶて(2017)




老い疾し来年遠し薺粥(なずながゆ)(2016)

にぎやかに花びら餅で花待たん(2016)

金婚の息を合はせて薺粥(なずながゆ)(2016)

花も蝶も鳥も止まらせ春着かな(2016)


水害を(こら)へし大地福寿草(2016)

初夢の妻が年年若くなり(2016)

洪水を呑んで育ちし小葉牡丹(2016)


寒椿溢れて島を香らする(2016)

日本に大伴家持新春歌(2016)

読初や万葉集巻一の一(2016)

四海波島の真ん中粥柱(2016)

 
十二月姉突然死去
降る雪や姉の謦咳(けいがい)消え去らず(2016)




雪折(ゆきお)れやばきばき風の又三郎(2015)

南天の(こぶ)も削りて祝箸(いわいばし)(2015)

喜寿すぎし(のち)や日日初御空(はつみそら)(2015)

  若菜摘ます子よ我こそが雄略天皇

万葉集巻一の一若菜摘む(2015)


八十を払ひ一歳新日記(2015)

()げ落ちし椀の家紋も雑煮(ぞうに)かな(2015)

洟垂(はなた)れの夢に応へん喧嘩独楽(けんかごま)(2015)


独楽(こま)打ちし地面のままに家を売る(2015)

寝て起きて初富士を見て八十年(2015)

志ん朝の遺してくれし初笑ひ(2015)

風渡る鳥海山や(いわいだこ)(2015)

日めくりも追ひ付かぬまま年新た(2015)

羽子板を乗りだす武者の初冠(ういかむり)(2015)

壬申(じんしん)の乱の山道雪吹雪(2015)

ゆるく咲きあと冬薔薇になるつもり(2015)



リハビリに連れ添ふ道ぞ恵方(えほうみち)(2014)

臘梅(ろうばい)吉祥天女(きっしょうてんにょ)﨟長(ろうた)けて(2014)

団子虫に大寒のあり痩せにけり(2014)

歌留多(かるた)取り手加減さるる歳になり(2014)

唄ひつつ青菜刻んで七日(かゆ)(2014)

嫁が君付けて古家を売りにけり(2014)


初富士の見ゆる草家(くさや)も古びけり(2014)

英霊碑あれば差しかけ初日かな(2014)




しろがねの眉整へて小豆粥(あずきがゆ)(2013)

氷砂糖舐めて寒九(かんく)をやりすごす(2013)


梅探る鎌倉十橋探りつつ(2013)

軒先の氷柱(つらら)を付けて家を売る(2013)

トロ箱に溢れて金目鯛(きんめだい)(2013)

子と墓の話などして投扇興(とうせんこう)(2013)

風花や四代住みし家を売る(2013)

老人と猫一匹や(いお)(2013)

築百年糞も百年嫁が君(2013)


警視庁下谷駐在福寿草(2013)



大寒や萬年橋に(びょう)あまた(2012)

寒雀(かんすずめ)傷みし田畑離れざる(2012)

御慶(ぎょけい)とてまづ水を()る庭師かな(2012)

人ふたり猫一匹や初鏡(はつかがみ)(2012)

空蹴つて逆さ大の字出初式(2012)




姉弟戻つて行けり国へ(2011)

九頭竜(くずりゅう)は海を流れて野水仙(2011)

水仙花アルプスの水ほとばしる(2011)

バス停は「恋人岬」水仙花(2011)

少年の橇安達太良の雪煙
(2011)

どの色もすこしづつ好き冬薔薇(ふゆそうび)(2011)

ポリープを一つ取り終へ鬼は外
(2011)

初泣きの赤子回して笑ひけり(2011)

初謡(はつうたい)易しき詞章(ししょう)を難しく(2011)

戦死者の家に届きし寒卵(2011)


初神楽(はつかぐら)我も一人の古代人(2011)

大寒のレールの継ぎ目踏んで来し(2011)


伊勢海老(いせえび)の見栄を切りつつ茹でらるる(2011)

越前国朝倉陣屋(じんや)水仙花(2011)

逆上がりして水仙に近づきぬ
(2011)

手も脚も太つとき赤子初笑(2011)

初島へ向かふ初荷の潮煙(2011)

少年の(そり)安達太良の雪煙(2011)


 

 

 

二月

薄氷や踏みつぶしたき人赦す(2020)

山に生れ山より出でず薄氷(2020)



椿島から三陸はとなる(2019)

麦踏むや祖父から大き足もらふ(2019)



雪解けて九頭竜となり酒となり(2018)

(妻の母の死6句)
老衰で母死なしめん真白(2018)

老衰は激しきいくさ小草の芽(2018)

来年の母は百歳春の雪(2018)

百歳まであとひと笑ひひとや(2018)

桃の花危篤の知らせまた夜半(2018)

一生分のに埋もれて母眠る(2018)


日記焼く故山山焼くやうにかな(2018)



ふるさとの雪解色なる白魚(しらお)かな(2017)

熟寝(うまい)して恋猫として目を覚ます(2017)

麦を踏む親子終生平教師(2017)

大山の雪解雫の白魚かな(2017)

まだ少し術後の痛み白魚汁(2017)


四つ手網春を振るひて白魚かな(2017)

春節や爆竹の音も赤赤と(2017)

香具山の麓に三日花見鳥(2017)




露座仏(ろざぶつ)やかの世のの雨雫(2016)

恋の日やお揃ひで買ふ花眼鏡(2016)
        *花眼鏡=老眼鏡

起きてすぐ身体問ひ合ふ二月かな(2016)

沖合のを知らせて汽笛かな(2016)


我がや珠と生まれて塵と往く(2016)

恋の日のメール開けば煙かな(2016)

泡閉ぢて山の薄氷(うすらい)また眠る(2016)

一種梅菓子百種めでたさよ(2016)




滝解くる閉ぢ込めし音解き放ち(2015)

麦踏むや少年足を大使(おおづか)ひ(2015)

斎藤茂吉と飯田龍太の忌日は二月二十五日

同い忌の茂吉は怪物龍太の忌(2015)

熱熱の餺飥(ほうとう)とせん龍太の忌(2015)

飲食(おんじき)の恵の幾許(ここだく)も(2015)

春節の真つ赤な街を豚饅頭(2015)

春の空傾けジェットコースター(2015)


の香や李白一飲三百杯(2015)



吾が村はうぐひす村となりゐたり(2014)

うぐひすや未完の歌をはじめから(2014)

三分大志抱いて入寮す(2014)



望や杜甫にもスカーレット・オハラにも(2013)

大仏の胎内にあるの闇(2013)

字の名は道祖神なり梅の花(2013)

春一番橋のたもとの鰹節屋(2013)



玉藻なす女神の髪の若布刈る(2012)

白魚の光飛び散る四手網(2012)

紅梅
をひとひら浮かせくず湯かな(2012)

の花子を眠らせてひと睡り(2012)

めきし関帝廟の煙たくて(2012)

シロナガスクヂラ縺れて
怒濤(2012)

マムシ沢から犇いて
春の水(2012)

立春の研ぎ音高し包丁屋(2012)


料峭の轆轤っ首にネックレス(2012)

亀目指すゑのころ柳
思ひ(2012)




貫之のかな美しや夕べ(2011)

光琳の屏風のの散りかかる(2011)


いぬふぐり避けて足場の高梯子(2011)

麦を踏む少年の足小さくて(2011)


お神籤の枝に緩みぬ日和(2011)

魚氷に上る海棲哺乳類研究会(2011)

路地裏のダンス教室猫の恋
(2011)

錦鯉ぱくと初雪呑み込めり(2011)



三月

小学校同級生から木の芽(あえ)(2020)

(なら)の芽と君を映して朱塗橋(2020)

生まれ家は隙間だらけや(しじみ)(2020)

五十年(ひいな)作りし背中かな(2020)



椿落つ打ち重なりて眠りたく(2019)

一本の椿の惜しき家を売る(2019)

我が家の戦後は長し夕椿(2019)


そのなかに八十路の我も大試験(2019)

次の代へお内裏乗せん牛車(ぎっしゃひな)(2019)

千年と一重筒咲き白椿(2019)

プリマドンナ声の力の椿餅(2019)

涅槃西風(ねはんにし)娘の年の占師(2019)





群衆にゐてかげろふとなつてをり(2018)

今朝逝きし母陽炎(かげろう)になりたまふ(2018)


構へたる弓弦(ゆづる)のゆるぶかな(2018)

花付けて天麩羅(てんぷら)にせん庭すみれ(2018)


妻のみが女なる家濃白酒(2018)

(ひら)け吊されしみな笑ふ(2018)

食断ちて迎へ待つ猫すみれ草(2018)

君の辺に降らまくは明日春の雪(2018)

鞍馬出て五条下れば春の雪(2018)


春の水あふれ大きな今朝の富士(2018)



二番子を育てて力滿つ(2017)

後白河も清盛も花西行忌(2017)

パタパタパタ発音リハビリも言へよ(2017)

ものの芽やリハビリセンターみな励む(2017)



将来は虫売りが夢卒園す(2016)

生まれきて計らるる(えい)温かし(2016)

天地の遊び初めや春の泥(2016)


啓蟄(けいちつ)や吾は土塊(つちくれ)となるところ(2016)



陽光を混ぜて山椒(さんしょう)の木の芽味噌(2015)

どの種もさつと出て来る種物屋(2015)

武蔵国野火止村(のびどめむら)春の水(2015)

農暦の余白が句帳種物屋(2015)

風水も宇宙も語り種物屋(2015)

はらからが傷つきしかや残り鴨(2015)

葦の(つの)坂東太郎を招じ入る(2015)


白酒を酌んで始まる女酒(2015)

分け入りて(きじ)の守れる御陵辺(ごりょうべ)へ(2015)

吊し(びな)吊されしものみな笑ふ(2015)

列なして波乗るごとき目刺かな(2015)

(おろが)みて珠の目刺を頭から(2015)


長い長い戦争(ひな)も戦へり(2015)

とこしなへ三面川(みおもてがわ)(さくらます)
(2015)

(わら)しべに(めし)ひて(たま)目刺かな(2015)

頬裏に稲の香のある目刺かな(2015)

さながらに大女傑なりミモザ揺る(2015)



故郷の山はタラの芽色ならん(2014)

裏山のこごみ若芽でもてなさん(2014)

春豪雪売り渡したる家のこと(2014)

展宏に問ふ三月十一日のこと如何に(2014)



春の土落として帰る野菜売(2013)

春泥や軍靴の音遠からず(2013)

蒲公英の賑はふばかりの本籍地(2013)

踏ん張って竹竿高し蜆舟(2013)

大山へ大きく傾げ蜆舟(2013)

姉弟で探る父祖の地春2013)

踏青やいつしか祖父に似し身体(2013)



北窓を開けて粉挽く蕎麦屋かな(2012)

茎立てり秩父盆地の真ん中に(2012)

一番星水張りし田に真つ先に(2012)

啼いて北山杉の山深し(2012)

つばくろも黄昏の色千曲川(2012)

同好会長の髭すみれ色
(2012)

津波四時春月遅く昇りし日(2012)


春蘭嗅ぐ鼻しづしづと集まりぬ(2012)

宝石箱のなかはがらくた春の雷)(2012)



の地震築百年の太柱(2011)

けふもまた強き余震や花木五倍子(2011)


作り雛の顔に似て来たる(2011)

受験
子の二人ゐて母留守勝ちに(2011)

けふもまた強き余震や花木五倍子(2011)

秋津島木五倍子の房の震れ止まず(2011)

北窓を覆へる空を開きけり(2011)

長城の万の北窓開きけり(2011)

陽炎の運んで行きし巨船かな(2011)


愛子の墓虚子の墓向くあたたかし(2011)

霾るや富士の向かうのユーラシア(2011)


雛作りの顔に似てきたる(2011)

暖かや中山晋平ハーモニカ(2011)


 

 

四月

校庭に立たされてゐるチューリップ(2020)

春眠の牛の目も浮くメコン川(2020)

祖父の家の四月十三日焼夷弾(2020)

丸刈りの新弟子一人草餅屋(2020)

永らうて百年を見るも憂し(2020)

軒下の小雀と言葉通じ合ふ(2020)


昇り行くの目玉のつり上がる(2020)

国民服を紺色に染め入学す(2020)

結婚指輪化して入学カバンかな(2020)

来年や観るのを疑はず(2020)



花冷えの白きその手を預からむ(2019)

妻のため生きんと決めし花見かな(2019)

川その源に母校あり(2019)


入学
せり国民学校一期生(2019)

夜は月の朝は日の色山桜(2019)

回るたび木馬新し花吹雪(2019)

永らうて百回見るもよし(2019)

形見分けされし老猫春愁(2019)


一木は今年限りや花の山(2019)



聞き慣れし声なき句会華鬘草(けまんそう)(2018)

大和三山三かたまりのかな(2018)

弁天は島を踏みしむ春の海(2018)




奥山の鬼の寝息のかな(2017)

太古いま海の底なり朧月(2017)


草餅や大和三山どつしりと(2017)

神の息鬼の息かも山おぼろ(2017)

而して生くることさへおぼろかな(2017)

 
仏には桜の花をたてまつれわが後の世を人とぶらはば(西行)とあれば
西行にたてまつらんか咲く(2017)

巣守子(すもりこ)を揺らして朝鴉(2017)


隠り国(こもりく)の初瀬長谷寺霞(2017)

どこまでが(おぼろ)どこからが恋心(2017)

(たた)
へればかうべかたぶけ笠(2017


葉脈のくれなゐ濡るる桜餅(2017)

古代飛鳥まで地続きや桃の花(2017)




うりずん南風(べー)死者も生者も花吹雪(2016)

退院や朝寝の続き我が家にて(2016)

退院の夫に浴びせん花吹雪(2016)


醍醐寺の空にあり歌があり(2016)

舞出でて渦潮となる海の神(2016)

億年の春の一日を渦見船(2016)


國造る鉾の一滴渦潮に(2016)



虚子の墓から黒揚羽荒荒し(2015)

裏山の暮れかねてゐる帰郷かな(2015)

永き日や端書一葉書きなづみ(2015)

これやこの土牛(どぎゅう)の桜の中(2015)


(はまぐり)の殻に遙かな海の景(2015)

父は大島母は江戸(2015)

義士祭基角(きかく)の弟子も祭られて(2015)

太閤を讃ふる醍醐(だいご)かな(2015)


菜の花や微笑む円空木端仏(えんくうこっぱぶつ)(2015)

春潮に乗つて海牛津波原(うみうし つなみはら)(2015)



湯引きしていよいよ紅し桜鯛(2014)

を詠み花を描いて花に逝く(2014)

満願の糸を綴ぢたるかな(2014)

宗匠の捌ききつたる日永かな(2014)

二の替はり三の替はりや春なかば(2014)

草餅や母は三つ指つと捻り(2014)

蓮池を脱ぎ捨つるごとかな(2014)

日の匂ひ残して暮れぬ花菜畑(2014)

朧月義政寝ぬる東山(2014)



真ん中に子猫を寝かせ川の字に(2013)

行く春や召波に春泥発句集(2013)

風水のきつとよからん雀の巣(2013)

鳴けば褒め睡れば褒めて子猫かな(2013)

お蚕のそろそろ糸の尽きるころ(2013)

千の壺に千の酒あり花馬酔木(2013)

を出でて一羽の囀れり(2013)

花売の上に降る神楽坂(2013)

染め卵ぱつと弾けて恐竜に(2013)

貝はみな春のおぼろを吐いてをり(2013)




といふ花は開いて水鏡(2012)

みよしのはさくらまじりの若葉かな(2012)

峰よりも高く鳥の巣天辺に(2012)

花辛夷山高ければ高く咲き(2012)

逢う日まであと三日なり
(2012)


窓際をゆく大川やヒアシンス(2012)

文弱の徒の春筍に鍬上ぐる(2012)


花屑を傘にかづきて宮大路(2012)

その奥の闇へ誘ふ夕桜(2012)



つちあけび土言祝ぐやつけて(2011)

豊のみちのくに田のあるかぎり(2011)


しばらくは沖を漂ふ花筏(2011)

菜の花の黄よ甦れ津波跡(2011)

一年の思ひの丈を囀れり(2011)

停電や地震見舞を書く遅日(2011)

誇らしき新入社員身分証(2011)


分けて曼陀羅の図に入りけり(2011)

墓誌十五行余白一行春尽きぬ(2011)

大島はひとかたまりの朧かな(2011)

海中の魚鱗の宮の桜鯛
(2011)


 

 

 

五月

経師屋の糊の香りや夏初め(2020)

(たけのこ)を煮る大鍋の百年史(2020)



移り住む小海高原鯉のぼり(2019)

はらわたは茂吉に食はれ鯉のぼり(2019)



空豆は捥ぎし朝の空の味(2018)

ゴールデンウイークとりわけ妻の誕生日(2018)

永らへてなほ永らへん菖蒲風呂(2018)

赤ん坊のお臍の中に菖蒲の湯(2018)

菖蒲の葉踏んで五右衛門風呂入る(2018)

早々と立てて賑やか菖蒲風呂
(2018)

老いゆくに力大事や棕櫚(しゅろ)の花(2018)



億年の千年の古石墳(2017)

親四人犬も送りぬ空木(うつぎ)2017)

足弱(あしよわ)()の花曇箱根山(2017)


そら豆や助け合ひ来し姉は亡し(2017)



空よりも水の明るき五月かな(2016)

牡丹散る十二単を脱ぐやうに(2016)

どの風も葭戸(よしど)通れば初夏の風


客去りし白き病棟夜の新樹(2016)




(みの)を振る腰たくましや麦の秋(2015)

に酒葉に飯盛らむ(ほお)大樹(2015)


卯の花(くだ)し妻は水中ウオーク中(2015)

この星のどこかで戦柏餅(2015)

片恋のはかなきヒマラヤ罌粟(けし)の青(2015)

(たままゆ)の千のいのちの白(つむぎ)(2015)

猿田彦(なり)舳先(へさき)鴉(2015)

桐の花高く咲いたり姉のため(2015)

疲れたる一茶の捨てし江戸菖蒲(2015)

飛魚のわたつみの色空の色(2015)


花みづき日月を()け星を享け(2015)

ばしやばしやと音立てて来る田草月(たぐさづき)(2015)




雛罌粟の少し混じりて麦の束(2014)

小満
や日々耕して日々祈り(2014)

一筋の糸にして絢爛と(2014)

富士は今朝臥せ在すらん夏霞(2014)

身の管の細り卯の花腐しかな(2014)

わたつみを還り来たれよ浜(2014)



伽羅蕗やけふは僧居る寺の庫裏(2013)

解かれて弾むをたなごころ(2013(

後ろ見は同じ兄弟食ぶ(2013)

袋掛
一つは掛けず虫どもに(2013)

袋掛桃のかたちに膨らませ(2013)

葬りし猫が牡丹となりし夜(2013)

楠若葉故郷の家は人の手に(2013)

柏餅瑞穂の国の米搗いて(2013)

売る家に最後の兜飾りけり(2013)



木漏れ日のまだ初め雑木林(2012)

初夏や瀬戸のいさきを八寸に(2012)

さうぶ湯にまどろむうちに喜寿となり(2012)

一本は鉢巻にして菖蒲の湯(2012)

曳く犬も曳かるる人も更衣(2012)

浮世絵の海はみだして卯月浪(2012)

卯月浪膝を抱へて兄妹(2012)

初夏を銀座の花屋剪り揃へ(2012)


舟渡御の祭り流して隅田川(2012)



忘れけり母に習ひしホヤ料理(2011)

いざともに三陸海岸ホヤ料理(2011)


空海の力溢るる夏書きかな(2011)

手を振つて夏雲へ往き還らざり(2011)

綿菓子を待つ間の列もかな(2011)


笊の中絹莢の莢透きとほる(2011)

歌舞伎座は未来図のなか街薄暑(2011)

これぞこの瑞穂国の柏餅(2011)

大八洲この柏餅ある限り(2011)

兄に倣ひ立ちたしと這ふ初端午(2011)


 

 

六月

眼薬一滴受けて出水(でみず)の救援へ(2020)

夏大根一本抜いて夕支度((2020)

虎の尾の花を揺らして通る猫(2020)

田植機のまだ真直ぐに植ゑられず(2020)



黄新た戦終はりて南瓜(かぼちゃ)(2019)

南風(みなみ)魚礁となりし魚雷艇(2019)

田植笠海へ空へと能登の道(2019)

村中の卯の花咲けりいざ田植ゑ(2019)

田植笠天に触れつつ能登棚田(2019)

ががんぼの死へ向く力残しをり(2019)

植ゑにゆく田植機の音軽やかに(2019)

八十路なほ田人(たうど)となりて田植唄(2019)

田を植ゑて大和島根のみずみずし(2019)



庭の(ひき)にも無差別の焼夷弾(2018)

払はれてのなかから旅カバン(2018)

水の地球の地球となりゆくも(2018)

名句なき季語と言はれて煙る(2018)

我が手紙妻の人質と消えよ(2018)


今年竹朝日に皮を脱ぎ捨てつ(2018)




棲み分けて大小三つ女郎蜘蛛(2017)

カナヘビの鱗忘れて石の上(2017)

無き田舎亡き祖父の行く麦藁帽(2017)

いい加減にせい筑紫次郎梅雨出水(2017)




人の居ぬ里に人の気栗の花(2016)

花びらのごとき子守宮(やもり)我が家に(2016)

座れよと椅子置いてありかんこ鳥(2016)

子鼠のために皮脱ぐ今年竹(2016)

時鳥(ほととぎす)喋り残しを次の朝(2016)

鑑真の来たり給ひし梅雨の道(2016)

梅雨や雨の言の葉千二千(2016)


眠る亀石になる亀風薫る(2016)

座れよと椅子置いてある夏鶯(なつうぐいす)(2016)

水を鎮め泥を沈めて早苗待つ(2016)

柚子の実の不揃ひなるはの意思(2016)



昼は影夜は火となる恋(2015)

父と子のすめらみことの暑き夏(2015)

薫風や祖母の使ひし佛和辞書(2015)

陶枕(とうちん)になじむ頭蓋(とうがい)季の替はり(2015)


輓曳(ばんえい)競馬より愚劣なるもの知らず(2015)

アメリカン・ショートヘアの梅雨湿り(2015)


川ごとの石垢(いしあか)の香りかな(2015)

昼顔(まがき)に住みて三ヶ月(2015)

世の中は千年単位山椒魚(さんしょううお)
(2015)



大利根の風をくぐらせ茅の輪かな(2014)

安達太良の雨はあたたかかたつむり(2014)


穴を出て汝も八岐の大かな(2014)

玉川の水も増したり桜桃忌(2014)

代田かな常陸南郷田水村(2014)



働いて働いて母蚊帳のなか(2013)

蛇を空にはふりて草を刈る(2013)

一日の終はりは蚊帳の匂かな(2013)


さくらんぼあをき空から一つまみ(2013)

土くれも新玉葱の香りして(2013)


万緑や家族で編みし遺稿集(2013)

去るとせむに託して父祖の墓(2013)

尻に付けて胡瓜の育ちをり(2013)




黒揚羽薄絹にして一重なる(2012)

子の継ぎし漆器工房花樗(2012)

母の遺せし実梅美し酒のなか(2012)

笈のごとリュック背負ひて青葉かな(2012)

河骨の花を寿ぎ鯉の渦(2012)


黒鯛の魚鱗の宮を護る貌(2012)

一乗谷朝倉陣跡草(2012)



水張つて絶えず音する田んぼかな(2011)

葦の葉にしばし息づく恋
(2011)

走り梅雨トーテンポールの帰心顔(2011)

河骨の花は葉隠れ水の音(2011)


梅雨や口をへの字に写楽の絵(2011)

の尊氏の墓額衝きぬ(2011)


古伊万里へ色とりどりの花菖蒲(2011)

のぼさんの着きし停車場夏帽子(2011)


菖蒲田の風の一つを胸元に
(2011)

緑陰へ鼻伸びて行く写楽の絵(2011)
 


 

七月

端居(はしい)かな妻の散髪力上がる(2020)

立ちて高天原の怪気炎(2020

懸垂を大きく
入道雲に伍す(2020)




何回も引越してゐる団扇(うちわ)かな(2019)

我が死まで我が家は戦後百日紅(2019)

鐘どこか反戦歌にも似て晩夏(2019)

八十路翁プレジャーボートの船首上げ(2019)

もう行けぬ西行庵や笹小百合(2019)

風呂敷は阿波の本藍夕涼し(2019)



次男坊は戦死碑となり灼けてをり(2018)

刃物屋にはがねのにほひ大西日(2018)

子供来てかき氷機の威勢よし(2018)


越えられぬ線のなかりし昼寝かな(2018)

茱萸(ぐみ)の赤の飛び散るかな(2018)


朱塗り門開いて山を開きけり(2018)



炎天や叔父の機一機帰らざる(2017)

帰省子(きせいし)の巻くに任せて掛時計(2017)


来し方も行く末も夢ハンモック(2017)

葛切(くずきり)の水も吉野の(おご)りかな(2017)

持統朝女帝四代雲の峰(2017)

無呼吸の大音響の昼寝かな(2017)

夾竹桃隣は若きジャズダンサー(2017)


蘭鋳(らんちゅう)は花の四歳鬱鬱と(2017)

琉金(りゅうきん)の流すオランダ更紗(さらさ)かな(2017)

遠雷や雲南省の千枚田(2017)



モノクロの家族写真へ帰省かな(2016)

船を曳くやうに山曳くかな(2016)

嬉しげな祇園の戻り太鼓かな(2016)


百合の高き一本姉の墓所(2016)

妻をりてこその男や(かすり)(2016)

夕映えの色もありけり茗荷(みょうが)の子(2016)


巻誠一郎熊本災害復興に奮闘
ロアッソ熊本巻誠一郎玉の(2016)


原発も海月(くらげ)も容れて若狭湾(2016)

向日葵(ひまわり)の太郎の顔と咲きにけり(2016)




から裸の赤子ひよいと受く(2015)

空蝉(うつせみ)のそれぞれにある脱ぎつぷり(2015)

恐がられず気づかれもせず端居(はしい)せん(2015)


共に見し全てのは眼裏に(2015)

大門に多聞天(たもんてん)あり風鈴市(2015)


雨乞や頼む木仏も乾き切り(2015)

土用波砕けて蟹に踏まれけり(2015)


曝書(ばくしょ)するたび風化する家譜(かふ)書録(2015)

縁日で掬ひし金魚とともに老ゆ(2015)


大輪や朝顔市に団十郎(2015)

この毛虫グレゴール・ザムザかも知れず(2015)

夏痩の一茶新宿テント劇(2015)

家出猫の飴にされゐし夜店かな(2015)

許さるることはどこまでメロン食む(2015)


待つ心色に出にけり半夏生(はんげしょう)(2015)

立てて博多山笠(きお)ひ水(2015)

金魚すくひ金魚と泳ぐ心かな(2015)



雷神を確かに見たる顔と顔(2014)

万巻や紙魚一匹に敗れたる(2014)

先頭は猿田彦なり雲の峰(2014)

悲しみはみんなみにあり雲の峰(2014)

青雲も沖もあるらん金魚玉(2014)

夏の月故宮の玉に英雄頌(2014)

  川端康成未投函の恋文発見
恋ひしらに九十余年落し文(2014)

ころてん死なば天寿と言はるらめ(2014)

入道雲マー君吠ゆるニューヨーク(2014)

一つ間の国際結婚金魚玉(2014

ゆつたりと水に包まれ川床料理(2014)

花氷甘き言葉も閉じ込めて(2014)


カミナリの下にカミナリ響きけり(2014)



夕焼けや我も路傍の石のくれ(2013)

裏見の滝
の裏芭蕉も曽良も現れよ(2013)


千早振る神ぞ惚れたる海女ならん(2013)

泳がずに歩くばかりの水着買ふ(2013)

二荒の神懐へ西日かな(2013)




水の中なる次の花(2012)

勢い水放ちてを放ちたる(2012)

振り返る箱庭の人夏痩せて(2012)

炎帝にひと日仕へてペンキ塗る(2012)

白玉の光掬はん銀の匙(2012)

あんみつや延命治療せぬ母と(2012)

尊氏の墓は洞穴雲の峰(2012)


毛虫降り来る速さ這ふ速さ(2012)

故郷は素足になじむ畳かな(2012)



灼熱の形に灼けてオートバイ(2011)

檻の中みな悲しくて昼寝もす(2011)

帰省子につんつるてんの浴衣かな(2011)

お相撲はんきつつい浴衣着やはつて(2011)


けふももたかき氷屋は手を回し(2011)

帆船の夏を終はりを膨らんで(2011)

今生を水を頼りて蓮の花(2011)

ラムネ玉不意を突かれて堕ちし夏(2011)

夏盛る
骨董市に火熨斗かな(2011)


このもラムネの瓶は水の中(2011)

少年となり探らばや裏見(2011)



 

 

 

八月

錦秋(きんしゅう)へ十日なりしを出水川(2020)



小隊長一人突撃流れ星(2019)

死は一弾死後は百年終戦忌(2019)

許されよ今年は曲がり瓜の馬(2019)

八月十五日みな善人の顔をして(2019)



のピアノシフォンケーキの音色して(2018)

生き別れ死に別れして敗戦日(2018)

五十年待ちし遺骨や母の(2018)

剪る一瞬水を吸ふなりの花(2017)

富士山の磨きし水を新豆腐(2017)

軍歌集四十九巻敗戦忌(2017)



天蓋を耕す棚田いなつるび(2016)

箱庭を今朝秋風の吹き渡り(2016)

戻り鰹札に朱墨(しゅずみ)の二重丸(2016)


玉音放送カボチャの花もうなだれて(2016)

この村も誰彼戦死敗戦忌(2016)


姉居らぬ初めての来たりけり(2016)

風を待つ草ばかりなりの庭(2016)

老猫もあるじも骨の立つ秋ぞ(2016)


新涼や鏡の奥の深くなり(2016)

長き長き母の戦後や敗戦日(2016)



このや国も古びて付喪神(つくもがみ)(2015)

背負ふカバン引きずるカバン身のぞ(2015)

語り部の遠野のやどんどはれ(2015)

猿酒(ましらざけ)かの世の友と謠せん(2015)


言葉とは伝はらぬもの門火で来い(2015)

一山は水音ばかり赤のまま(2015)

()き顔のカンナ田老(たろう)防潮堤(2015)

手を拍てばなにか飛び出す社(2015)

犬死も英雄死もなし敗戦忌(2015)


新涼の母の忌フルーツサンドイッチ(2015)



シャガールの赤を冷やして西瓜かな(2014)

深川はになりけりあさり飯(2014)

子規の句の西瓜泥棒とは俺か(2014)

オアシスで西瓜食らはむ天山路(2014)

玄奘の帰り来たれり西瓜下げ(2014)

みんなみに散りし親族の魂祭(2014)

球体の計算式の西瓜割る(2014)

かの世なる家族写真や盂蘭盆会(2014)



曳き舟や八月の泥曳いてゆく(2013)

秋風か棚機つ女の機の音か(2013)

 


海遙か九段坂上高燈籠(2012)

カンナ村に一つの消防署(2012)

秋暑き地上へジャンボすべり台(2012)

鬼面仏心鵠沼印カボチャかな(2012)

秋暑し糸のごとくに細る月(2012)


秋の句を作りにはかにめける(2012)

人と逢ふための来る今年かな(2012)



豊のみちのくに田のあるかぎり(2011)


倒木を焼く浜の火やに入る(2011)

傷つきし島々に松島湾(2011)

旨し終ひは熱きメヌケ汁(2011)

の日の速き木曽路や良寛碑(2011)


初秋のおむすび包む高菜漬(2011)

や柔らかさうなダビデ像(2011)


泥鰌隠元わしづかみして笊の上(2011)

朝顔のうはさ話に色深め(2011)


夏は海へは海から一煽ぎ(2011)

震災のみちのく鵲橋を架けよ(2011)



九月

秋出水地球をさらに我楽多に(2019)

野分あとそと抱き起こす女郎花(おみなえし)(2019)

倒されて口一文字花桔梗(ききょう)(2019)

長き夜や生死流転して野良犬(2019)

反戦歌歌ひ継ぎ鈴虫の夜に(2019)

放射能も塵事(じんじ)野分溜りかな(2019)



オホーツク海に研がれて新秋刀魚(2018)

泣きさうな笑ひ顔して曼珠沙華(2018)

力ある限りは太れ茄子(なすび)(2018)

猫の骨埋めん桔梗の開く朝(2018)

故郷は駅から三里曼珠沙華(2018)

月光やガザに(めし)ひて深海魚(2018)



この潮や大羽(おおば)となり下る(2017)

蒸かしむけば故郷の月上がる(2017)

作り焦げ茶の似合ふ歳となり(2017)

鳴き初めてや宇宙のど真ん中(2017)

女郎花(おみなえし)花野より来て枕上(2017)


紫苑(しおん)咲く草履作りを始むる日(2017)

高し馬の飼料の萩を積み(2017)


楽しげな西施(せいし)范蠡(はんれい)の道(2017)




極楽の余り風なり金木犀(2016)

その色で分かる故郷の秋茄子(2016)

桔梗咲き初めし長谷寺花便り(2016)

七十路は遊び盛りや大花野(2016)

の世の仮寓といへど去り難し(2016)


人体は(まくず)ヶ原の未知ならめ(2016)

今宵ひとりの旅をゆかしめよ(2016)



蓑虫は国を憂ひて曲がりをり(2015)

戦争法や非戦の法や煮会(2015)

毛野国(けのくに)の鬼よ怒るな秋出水(2015)

将門(まさかど)の馳せし戦場秋出水(2015)

いざゆかん虫取網を杖にもし(2015)

芋虫や太きからだに太き胆(2015)

難民も洪水もあり創世記(2015)


水澄むや十六井戸に渡来銭(2015)

まだ色の乾き切らざる赤とんぼ(2015)


剥いて富士の玉水たなごころ(2015)

芋虫のキャベツ二枚で足る一世(2015)

田沢湖へどの桔梗(きちこう)も傾ぎをり(2015)

花野家譜(かふ)のはじめは甚之丞(2015)

曼珠沙華
(まんじゅしゃげ)
一字一字が花めきて(2015)


草屋(そうおく)を招じて杜甫を読む(2015)

体内のまろきところに納む(2015)




紫蘇(しそ)摘むや小蟻も混じる十グラム(2014)

紅くあれ金時も金太郎も(2014)

長き夜(やつかれ)安萬侶(もう)すこと(2014)

蚯蚓鳴く国に生まれて詩人たり(2014)

いもの蔓強くあれ藷太くあれ(2014)

骨のなきものは崩るる鰯雲(2014)

語り得ぬ故に沈黙蕎麦の花(2014) 

芋銭と同じ郷なるの屑(2014)

野分あとみんな顔出す恐竜も(2014)

ちちろ鳴く廊下に祖母の衣装箱(2014)

分け入れば仕りくるの声(2014)

売る家や聴き分けてゐるの声(2014)




蟷螂大きくなつて戻りけり(2013)

隠れ井戸一偈映して水澄めり(2013)


曼珠沙華終ひは白き糸吹いて2013)

伊賀の翁の気残る土間畳(2013)


長き夜や蕪村句集講義三(2013)

 
S君を悼んで二句
雁の列大きな声の一羽ゆく(2013)

このは彼の世で謡ひをるならむ(2013)

み吉野の乱のあれこれ葛の花(2013)

葉鶏頭
人の恋しききのふけふ(2013)

洪水を鎮めて高し今日の月(2013)

コスモスのお姫ぶりなる草の原(2013)

揺れて風の行方の定まらず(2013)




づかづかと来て竹切つて帰りしよ(2012)

のひとかたまりの朧かな(2012)

ドラマーのつひに秋の蚊打ちにけり(2012)

明や引導渡されてゐる棺(2012)

白や嗣治のキキ・ド・モンパルナス(2012)

の寺解脱成つたる猫一匹(2012)


幾枚も祖父の履歴書露けしや(2012)

三百年の松を侍らせ月見かな(2012)

滝の上にかかりいよいよ澄めり(2012)

満月や能登白米の千枚田(2012)

窓少し開けて野分を招じ入れ(2012)


南蛮煙管寄生の憂さを吐いてをり(2012)

迎へ居る駆込み寺の吾亦紅(2012)

而して雨月の通夜の客となり(2012)


おいここだと亡き父の声花野かな(2012)

嫋やかな巫女の袴や秋の蠅(2012)

跳ねて水上スキーを倒したる(2012)




蝶一つこぼるるをくぐりゆく(2011)

染まりけり深山のの花ずりに(2011)

海嘯に流れし線路萩の花(2011)


仙石線切れし鉄路や秋の蝶(2011)

みちのくの籬に竹の春来たる(2011)


窮屈な嫦娥のの昇りけり(2011)


源流へ遡る吉野川(2011)

染まりけり深山のの花ずりに(2011)


名月や机の上の発禁本(2011)

はやて号うすばかけろふ追ひ越して(2011)

桔梗の夢の溢るる蕾かな(2011)

妹を乘せコホロギも乘せにけり(2011)




 

十月

(いが)にしなる天井鼠寺(2019)

故郷は墓のみ残る茨の実(2019)

三畳間花と輝くきんとん(2019)

あの雲の向かうが故郷おこは(2019)

騎馬戦の騎手こそ我が子運動会(2019)

寺に生れ僧とはならず守り(2019)



烏瓜樹々を枯らして天高し(2018)


樽を出て光ひしめく新走(あらばしり)(2018)



逝きてなほ母は全能菊の酒(2017)

無花果(いちじく)兵は故国で死ねざりし(2017)

赴任地はみな酒所紅葉焚く(2017)


頽齢(たいれい)の夜は覚めやすし菊枕(2017)

週末の箸は杉箸(なます)2017)


秋深し我が一族史まだ半ば(2017)



鳥威(とりおどし)し見慣れし(からす)ぶら下がる(2016)

もみじ朝日にこぼれおちさうな(2016)

座る美男仏のごとくかな(2016)

反り返り前のめりして運動会(2016)


鳥渡る露座にまします美男仏(2016)

豊受宮(とようけぐう)の恵みずつしりきんとん(2016)

栃木に生れ栃木の川を下り鮎(2016)

鷹渡りゆく見ゆるかに消ゆるかに(2016)



新米や昔のおぼこ焚きくれつ(2015)

満州の赤き夕陽や落花生(2015)


銀杏のまるく釜飯炊きあがる(2015)

波羅蜜(はらみつ)の国からつづく草紅葉(2015)

挽歌(ばんか)とは相聞歌(そうもんか)なり玩亭忌(がんていき)(2015)

人の世は挨拶ばかり玩亭忌(2015)


釣瓶落としの天を見てをり壺の中(2015)

蓮の実は飛ぶは夜来香(いえらいしゃん)は匂ふは(2015)




 “露人ワシコフ叫びて石榴打ち落とす”(西東三鬼)
ワシコフは去りしか石榴(ざくろ)熟れゐたり(2014)

 墓誌に出羽鶴岡の人丸谷才一とあり
出羽に山鶴岡に人玩亭忌(がんていき)(2014)

(わら)を干せ衣食(えじき)
を吊せ秋土用(2014)

白鵬優勝回数大鵬を越える
大鵬の切られし(まげ)秋思(しゅうし)かな(2014)

阿武隈の水を畏み走り蕎麦(2014)


寝覚めかな胞子噴き上げ毒キノコ(2014)

菊枕大和島根を褥とし(2014)


秋風やすでに天寿にあるらしき(2014)



の夢見るうちに落栗に(2013)

食んで父偲ぶべし憶良の子(2013)


人恋の人麻呂歌集柿紅葉(2013)

  
闘病中の友人へ
君の声心待ちして猿酒(2013)

おこは彼の世の母と戴きぬ(2013)



里の一株入れて引越荷(2012)

孔子像に朋あり遙かより小鳥(2012)


八重を賞めて一株戴きぬ(2012)

亡母さんのと呼び来て十五年(2012)


莫言と山東省で菊の酒(2012)

父の忌に近き母の忌秋の声(2012)



げんこつ山芋強さうなるを選びけり(2011)

建売に一番乗りの懸巣かな(2011)

の毬落つこちてをり笑ひをり(2011)

手始めにを落として冬用意(2011)


木曽谷は岨道多し栗ご飯(2011)

日本に栗菓子栗飯栗名月(2011)


高音ふと足つきの空き巣めく(2011)

弟と故郷問はんの酒(2011)

土の香をつけ新じやがの茹で上がる(2011)

嬌声に中庭の伏せしまま(2011)



 

 

十一月

波郷(はきょう)の忌父も(あばら)を切られけり(2019)

男だけの料理教室大根()く(2019)

に入る婦人画報の玉三郎(2019)




お隣の逝去の知らせ(ひいらぎ)(2018)

に入る心拍強し冬越さん(2018)



小春日に干さん沖縄眠り草(2016)

渡る稲村ヶ崎空の辻(2016)

我が祖母の紡ぎ残しやしろばんば(2016)
             *しろばんば=綿虫



この星を少し揺すつて大根引く(2015)

七五三戻りて大盛りスパゲッティ(2015)



(こがらし)(けわ)ひも落ちて竜田姫(2014)

や関東平野を終電車(2014)

代代の沢庵(たくあんいし)もけふ限り(2014)

熊手より大きな手もて手締せん(2014)

木枯
茶なる色合ひに埋もれをる(2014)



楽しげな雀の混じる落葉かな(2013)

木像の十二神将に入る(2013)



時雨関東平野を行く電車(2012)

八幡様のお神酒饅頭初時雨(2012)

車椅子しばし休憩返り花(2012)

老松を残し綿虫南へ(2012)



膝ついて落葉払ひぬ去来の墓(2011)

落葉散るや蒔絵の硯箱(2011)

現れて昔を探す返り花(2011)


楽しげに枯葉に似せてゐるさなぎ(2011)

子も入れて背負うて帰る落葉(2011)

母を迎へき冬晴れの無人駅(2011)

小春日の足跡を消すささら波(2011)



 

十二月

煤逃げの混声賛美歌合唱団(2019)

完了は卒寿や五年日記買ふ(2019)

不機嫌な少年たりしを搗き(2019)




湯豆腐やこれから先は妻立てて(2018)

遺されし紅型染め具年の暮(2018)

母逝きし九十九歳除夜の鐘(2018)




若死にの父と年取る除夜の鐘(2017)

泣きべそが新料理長クリスマス((2017)



日向ぼこ病重きを上席に(2016)

狐火や去年逝きし姉しんがりに(2016)

十二月八日波立つ太平洋(2016)

五段組せいろの湯気や餅を搗く(2016)

鈴振つて信濃追分冬座敷(2016)

水害に流されそこね年木(としきつ)む(2016)

先を行く姉ふと消えし冬田道(2016)

百年を猫も眠るや漱石忌(2016)

全集の橙色褪せず漱石忌(2016)



母偲ぶ妻ありがたし除夜の鐘(2015)


れ残る最後は(まなこ)蟷螂(おおとうろう)(2015)

漱石没後百年
百年を横たはりをり漱石忌(2015)


着ぶくれて動く歩道に運ばるる(2015)



煤払ひ荒神(こうじん)さまのお裾内(すそうち)(2014)

帰り来し玄奘和尚(げんしょうおしょう)冬至風呂(2014)

次に焼く炭焼き薪に()ぬる虫(2014)

冬籠(ふゆごもり)李白は一斗詩百篇(2014)

現れよ父より大きマント着て(2014

老猫の下の手当や漱石忌(2014)

撃つて大和鎮めしイワレビコ(2014)

比良山の月も加へんン鍋(2014)


鈴を振ればにはかに山深し(2014)

待合室名前呼ばれてをする(2014)



風の音か師走八日を哭く声か(2013)

漱石山房癇癪持ちの火鉢かな(2013)

冬の陽をよくかき混ぜよ冬至粥(2013)

餅搗くやせいろの湯気も威勢よく(2013)

草臥れし杵の転がる冬野かな(2013)


投げの祝ひの意気を拾ひけり(2013)

風吹けば骨の音して枯れ蟷螂(2013)

乾鮭のいまだ木鶏とはなれず(2013)

年老いて癖尖りくる漱石忌(2013)

埋み火のなほ赤赤し漱石忌(2013)

  漱石の句に、菫ほどな小さき人に生まれたし、とあれば
襤褸市の襤褸となるべし菫より(2013)

哲学の道をはづれておしるこ屋(2013)

句に切れ字屏風に右隻左隻かな(2013)

短日や遷宮式事粛粛と(2013)

乾鮭の鼻つ柱をなほ競ひ(2013)

除夜の鐘開戦詔勅七十年(2013)

綿津見の色を重ねて青海鼠(2013)



なさるるがまま鮟鱇のぶら下がり(2012)

こんもりと小屋の炬燵に山男(2012)

に溢れよ畝を高く積む(2012)

セーターの跳び損ねたり恋瀬川(2012)

吊されて力溜めゐし除夜の鐘(2012)

花切手使い切つたる年の暮(2012)

老猫の生き様学び冬籠(2012)

おでん屋で一目惚れしてからのこと(2012)

爆弾と言うておでんのひととなり(2012)

冬夕焼手紙来ぬ日の多くなり(2012)

しばらくはこの冬蠅と一つ部屋(2012)

延長戦負けて口惜しき湯冷めかな(2012)


この谷の風の形の枯葎(2012)


芦枯れて風の音また水の音(2012)



火の番の昔の音をことさらに(2011)

手相見の己が手を見て聖夜閉づ(2011)


そのなかの母の遺品や夕焚火(2011)

水道口吸うて水呼ぶ冬籠(2011)


祢宜御輿神馬しんがり冬の蠅(2011)






二十句詠

                中国の晩夏光



西域へ旅立つ朝餉夏の雷

朝の雨客舎柳色新たなり

星涼や陽関の西故人なし

洞窟の天女の壁画晩夏光

剥落の砂漠回廊瑠璃蜥蜴

邯鄲や我が顔いくつ兵馬俑

洞窟百景その片隅に蟻地獄

王朝の故宮の小庭蛇の衣

妹と西日を載せて驢馬車

神さびてゴビの砂漠の望の月

人はみなひたすら急ぎ国慶節

木の実ひと山木の実色した売子より

ロシア文字多き国境雁渡し

国境川夜釣りの浮子を闇に投ぐ

二胡の弓流るる運河花カンナ

シシカバブ裸電球地場ビール

流星や国際列車南へ

駱駝似の駱駝使ひの秋惜しむ

                                 (2010年9月)                

 

 

            中国東北地方紀行


中国の島影中国らしき秋

月光や小舟進まぬ渤海湾

二百三高地の秋日望平湾

旅順開城約せし跡や鵙日和

アカシアを透かせるための大西日

流星や国際列車北上す

ずれ違う寝台列車の団扇かな

蜀黍原昼なほ暗き駅舎かな

穀倉地帯コーリャン風の吹き返す

ロシア文字多きハルビン雁渡し

初雁のスンガリ川を南下せり

柳落葉国境越えし暴れ川

洪水の傷跡高し新松子

秋落暉ヤマトホテル箋父の信

近寄れば父は柳の霧となる

草の花ノモンハンから兵の歌

清朝の故宮の庭や杏の木

日中戦争記念館曼珠沙華

秤より買ひし木の実を叩き割る

心音の確かや日本海の波

 (2009年9月)










                 ライン川

船も人も西日に溶けてライン川

還らざりし父の声載せ夏の川

黒雲ははかなき憤怒夏の空

脳も腸もぶら下がってゐる夜店かな

向日葵の日を向くばかりとはならず

楽隊の夏野のごとく不揃ひに

みどりごの豊かなる夏母の胸

黒き森昼寝の覚めぬ人と鳥

山道はやがて谷道夏落葉

楽聖の大き補聴器夏静寂

紫陽花やエリザベステーラーの水泳帽

賭好きなロシア夫人の玉の汗

接骨木の花の名残の城の跡

嬌声のなかの中庭蔦茂り

無口なる神学生のアイスティ

聳え立つ大聖堂や遠花火

地下深きローマ遺跡や曼荼羅華

行く夏のさきの戦場煙の木

乗り継ぎの空港灼くる帰心かな

夏雲の湧く国古事記日本書紀

              (2009年7月)





 


               小太郎


岩田帯そつとゆるめて七日粥

産月の娘の帰り来し桜餅


子がこども産みしその日の鯉のぼり

産まれれば意のごとならず武者人形


名付くまで小太郎と呼ぶ五月かな

子を抱く手つきあやふし若楓

紙兜被せて赤子初端午

薫風や墨黒々と嬰児の名

昼顔や赤子の顔の百面相

身二つになりて帰る娘合歓の花

優曇華や赤子に広き母の胸

柔らかき祭半纏から赤子

孫二人左利きらし水鉄砲


小太郎を抱きし太郎雪降り積む

赤ん坊の声の乳色初笑ひ


赤ん坊の名前書きたや祝い箸
                           (2009年3月)





                 







              白夜へ滲み出す

バイカル湖横切る夏の雲の影

東京の蠅モスクワへ飛び出せり

向日葵や露人イリーナ通弁す

レーニン廟の広場晩夏のコンサート

遠雷やイワン雷帝馬車の音

片陰をはみ出して来る大男

モスクワ川たった一人の夜釣かな

古戦場の新郎新婦花カンナ

飛機夏の機影を白樺の森へ

白夜へとペテルスブルク滲み出す

ネヴァ川のハネ橋跳ねて白鳥座

拍動の乱れし不安夜半の夏

玫瑰の堤の先のバルト海

戦史碑のまこと多かり夏落葉

驟雨去り噴水川に鳥戻る

バラライカからロシア民謡夏野原

飛行機雲夏雲を出て秋雲へ

マンモスの眠れる森の晩夏光

バルト海要塞越えて蚊の柱

切紙のロシア絵本や夏果てり
                        (2008年8月)



       


サン・ジェルマン・デ・プレ

サン・ジェルマン通のカフェ朝の薔薇

花菩提樹ひかり揺れ風揺れて来し

水打てる朝のシテ島黒き犬

ユトリロの白と出逢へり半夏生

凱旋門から八方へ青葉風

夏衣の風切れぬ肩シャンゼリゼ

夏の泥浚渫船の三色旗

呼び声のお国言葉や露台から

馬冷やすベルサイユ森四輪馬車

うっとりとローランサンの子鹿かな

睡蓮の時刻みゐるモネの池

薔薇窓のステンドグラス夏の闇

ゴッホの部屋のまこと小さや罌栗の花

夕立や凹凸深き石畳

イベット・ジローの唄真似てみし額の花

ミラボー橋我も流れむ夏の暮

古本屋の灯ともす河岸夏の月

オペラ座の身を翻す火取虫

夏の夢ショーの終りは灯の飛礫

人騒のいつかは果つる白夜かな

(2007年6月)

 


湖影                

日に四便のバス待つ翁秋湖畔

河童の淵なる稲の田の見え隠れ

紫陽花の湖面の色となってゐし

ペルシャンブルーとは新涼の森の湖

岩垣の淵の深蒼ナナカマド

雷神と湖底の太古交信す

虎杖の花傾けて夕立かな

湖に注ぐ沢辺に摘みし秋の菜

さまざまな水音すなる秋の湖

秋の湖へ夕べの水の落ち行けり

棚雲を落ちてしまひし西日かな

大西日落つ湖の音残し

宵闇の余光集めし山の湖

垂直に立つ秋田杉秋の月

さそり座の尾の打ち払う花火かな

水神の渡す湖路秋燈

さまざまな虫住まはせり秋田蕗

船着場は榛の木の下群とんぼ

樹を囲む桔梗の湖へ靡きをり

山姫の転がってをり湖畔宿

 (2006年8月)

                         ベルリン行 

欧亜隔つウラル山塊雲の峰

ブランデンブルグ門にあり敗戦忌

桐一葉空爆の前後の市街地図

銀漢やホロコーストのメモリアル

空爆の崩れ鐘塔秋夕焼け

通の名はヒロシマ通り草の露

薄靄のダブルスカルや今朝の秋

黒き森白き涼気を生みてをり

菩提樹に続く菩提樹秋の雨

秋の雷青青々とピカソの絵

美術館出て胸ほどの曼荼羅花

小オペラ主役照らせし月明かり

呼び声のときに母国語夏の市

高き城胸張りて越す夏つばめ

輪唱の通れる野原夏ゲンゲ

赤煉瓦広き工場夏落葉

水澄みて城いささかも揺らぐなし

広き肩落とせる男秋の駅

住み家跡の不意の秋雨父の声

父の霊半分連れて秋帰航

(2005年8月)

(「中国語エッセイ・日本語つき」(2005年)のページの「柏林行」をお読み下さい)                                               

スペイン紀行

病みし身の覚束なくも夏の旅

おしゃれ着の一家薄暑のエアポート

峰雪の流れの速し薄暑かな

夏風や羽根の破れし大風車

オリーブの樹海の果てや夏館

夏涼し大聖堂を行く神父

マロニエの綿毛ゆっくり初夏の舞ひ

麦秋の畑の広きや老農夫

麦秋のスペインアラブの古砦

魚野菜果物人声夏の市

深き峡飛ぶ鳥全て峡のなか

夏至の陽のひかり一すじ峡の底

人気無き闘牛場や夏の影

フラメンコ飾りと汗の散りし夏

石畳スペイン犬の黒き影

城壁を襲いしブーゲンビリアかな

王宮の彫刻の陰雀かな

モロッコはときに眼の先夏の霧

フィルオ・イグレシャス声の甘しや夏街道

雲速き夏のイベリア残り月

(2005年5月)

(「中国語エッセイ・日本語つき」(2005年)のページの「西班牙旅行」をお読み下さい)

 


                               北欧紀行             

我は空路父は鉄路や夏渡欧

影黒しシベリア大地夏の雲

天の原西日の西まで火色雲

空ある我に西日よ曝せ汝の全を

北欧の少女金髪光る夏

夏フェリー速し我が身の果てるごと

盗人もゐて観光船夏溢る

フィッシュ・アンド・チップス熱し夏港

岩貫く山岳鉄道ナナカマド

氷解水青流速し妻は夏

空蒼きスカンジナビア原爆忌

大瀑布フィヨルド湖面揺るがざり

フィヨルドは碧し夏客万国色

白き夜ムンクの叫びに目覚めけり

怒り小僧に肩をそらせり夏の庭

バイキング乗せし木船や夏の霊

夏清爽万物映す朝の湖

大氷河落ちる水霊虹縦に

アラビアの少女一団薄衣装

夏ツアー名簿を作り別れけり

(2004年8月)